現代人として心惹かれるのは、老妻の愛の迷走以上に、当時、さまざまな愛のまじないがあったこと。十一世紀半ばといえば『源氏物語』ができてから約半世紀後。ミカドに愛されてなんぼ、ミカドの子を生んでなんぼの時代はまだまだ続いていた。貴族の姫君には、男に愛されるためのさまざまな教育がなされ、本人のファッションや美容はもちろん、おつきの女房の容貌まで厳選されていた。現代人から見ると妖しげな、こうした愛の秘法も展開されていたことは想像に難くない。例によって当時の医学書『医心方』を見ると、第二十六巻の仙道篇には“相愛方”(相思相愛になる処方)という、医学書とは思えぬ項目がある。その処方をいくつか挙げると、「夫婦が水と火のように不和になった場合、オシドリの尾の羽を取り、千手観音像の前で、千八十回、呪文を唱え、体全体をその羽で触れると、生涯、歓喜し、互いに敬愛する」オシドリは、オシドリ夫婦ともいわれるように、夫婦仲の良いことで有名な鳥。だから、なのだが。千八十回もの呪文とは怖すぎる。
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